新潟家庭裁判所 昭和42年(家)1744号 審判 1967年8月03日
申立人 斉藤安子(仮名)
相手方 浅田高子(仮名) 外六名
主文
一、被相続人浅田為蔵の遺産を次のとおり分割する。
(1) 別紙遺産目録記載の第一、家屋、第二、宅地、第四、有価証券、その他は相手方浅田誠一の所有とする。
(2) 相手方浅田誠一は申立人に対し金二九万六、六四一円を次のとおり分割して支払うこと。
(イ) 昭和四三年七月三一日以降昭和五一年七月三一日までの間、毎年七月三一日限り各金三万円宛
(ロ) 昭和五二年七月三一日限り金二万六、六四一円
二、審判費用中、鑑定手数料(金八万七、六四八円)はこれを一〇分し、その九(金七万八八四円)を申立人の負担とし、その一(八、七六四円)を相手方浅田誠一の負担とする。
理由
一、相続人および法定相続分
(1) 本件記録添付の戸籍謄本によれば、被相続人浅田為蔵は昭和三八年一〇月二四日死亡し、相続が開始したこと、而して申立人斉藤安子、相手方浅田高子、同岩田道子はいずれも被相続人浅田為蔵の子であり、相手方浅田誠一は同被相続人の養子であり、相手方岡本信子、同岡本清明、同岡本ハルミ、同岡本圭子はいずれも被相続人浅田為蔵の四女岡本正子(昭和三四年七月二四日死亡)の子であることが認められる。従つて、被相続人浅田為蔵の相続人は申立人および相手方らであることは明らかである。
(2) 次に、被相続人浅田為蔵に対する右認定の親族関係によると、各当事者の相続分は、申立人斉藤安子、相手方浅田高子、同岩田道子、同浅田誠一はいずれも五分の一であり、相手方岡本信子、同岡本清明、同岡本ハルミ、同岡本圭子はいずれも二〇分の一(すなわち、1/5×1/4 = 1/20)である。
二、遺産の範囲および評価額
当裁判所調査官の調査・鑑定人の鑑定および当裁判所の調査の各結果によると、被相続人の遺産の範囲および相続開始時と現在における評価額は別紙遺産目録記載のとおりであることが認められるところ、そのうち物件第三、の農地は当裁判所昭和四二年(家)第一九〇号第一七四三号遺言書検認申立事件記録によれば被相続人の遺言により、申立人および相手方浅田高子にそれぞれ遺贈されていることが認められるので、結局本件において分割の対象となる遺産の範囲は物件第一、家屋、第二、宅地、第四、有価証券、その他である。
なお、この他に遺産として若干の動産類があるけれども、当事者に対する審問の結果によると、右動産は本件分割の対象としないこととするとの合意があるものと認められるので本審判においてはこれを考慮外とする。
三、各当事者の相続分の算定
(1) 本審判において分割の対象となるべき遺産の範囲は、前記認定のとおりであるが、まず、別紙遺産目録中、第三、農地は前記のとおり申立人および相手方浅田高子に遺贈されているから、民法第九〇三条により遺産とみなさるべきである。
(2) 右の他、相手方岩田道子に対する審問の結果によれば、同女は昭和一一年より五年間東京○○専門学校において専門教育をうけ、その間の学費として被相続人より毎月金四〇円(五年間の合計金二、四〇〇円)の送金を受けたことが認められる。そうだとすると右学費は右相手方の生計の資本として贈与されたものと認められるから、右金員も相続財産とみなさるべきである。ただ学費である右金二、四〇〇円をそのまま相続開始時の相続財産に組入れることは著しく相続人間の公平を害し、遺産分割における実質的公平の理念に反すると考えられるので、右学費送金当時における金二、四〇〇円は、これを物価指数の変動に応じ相続開始当時に評価算定し、(日本銀行「東京小売物価指数年報」によれば、昭和一一年ないし昭和一六年を一とすると、昭和三八年は略二七〇であることが認められる)、すなわち、金六四万八、〇〇〇円を相続財産に加えることとする。
(3) 次に、相手方浅田誠一に対する審問の結果によれば、同人は福島大学○○学部在学中、昭和三七年四月から翌昭和三八年一〇月までの一年六月間被相続人から学費として月八、〇〇〇円の仕送りを受けていたことが認められるから、右合計金一四万四、〇〇〇円は右相手方の生計の資本として贈与されたものというべきである。
(4) 申立人は以上のほか、相手方浅田高子ならびに相手方岡本信子、同岡本清明、同岡本ハルミ、同岡本圭子らの母であつた亡岡本正子がいずれも婚姻に際して被相続人から相当額の仕度をしてもらつたり、或は学費として送金を受けた旨主張するけれども、これを認めるに足る証拠はない。
(5) 以上により相続開始当時の被相続人の相続財産とみなされる財産の価額の合計は金三、〇五万二、二五八円となる。
従つて、
(イ) 申立人の相続分は
3,052,258×1/5-408,500 = 201,951(円)
(円未満切捨、以下同じ)
(ロ) 相手方浅田高子の相続分は
3,052,258×1/5-458,400 = 152,051(円)
(ハ) 相手方岩田道子の相続分は
3,052,258×1/5-648,000 = -37,549(円)
(すなわち右相手方の相続分はなし)
(ニ) 相手方浅田誠一の相続分は
3,052,258×1/5-144,000 = 466,451(円)
(ホ) 相手方岡本信子、同岡本清明、同岡本ハルミ、同岡本圭子ら各相続分は
3,052,258×1/5×1/4 = 152,612(円)
となる。
ところで、各相手方らに対する審問の結果によれば、相手方浅田高子、同岡本信子、同岡本清明、同岡本ハルミ、同岡本圭子らは何れもその相続分を相手方浅田誠一に譲渡し、相手方誠一もこれを了承していることが認められるので結局相手方浅田誠一の相続分は
466,451+152,051+3,052,258×1/5×1/4×4 = 1,228,953(円)
となる。
四、分割すべき相続財産の価額
分割の対象たる相続財産は別紙遺産目録記載の第一、家屋、第二、宅地、第四、有価証券、その他となるところ、このうち第一、家屋については、いずれも第三者に賃貸中であるから、相続開始後の法定果実としての賃料は右家屋の現在価額の中に算入さるべく、また有価証券についても相続開始後の配当金は右証券の現在価額中に算入さるべきである。蓋し賃料および配当金は相続財産の価値をそれだけ増殖させたものと考えられるし、遺産分割手続の一括処理上からも便宜だからである。
ところで、相手方岩田道子に対する審問の結果によれば、相続開始後における家屋賃貸料および株式配当金は、昭和三九年度一四万三、一七〇円、昭和四〇年度一六万四、〇〇〇円、昭和四一年度一六万七、六七〇円、昭和四二年度(一月以降七月迄)一〇万〇、四二九円(但し、賃料月一万二、〇〇〇円配当金月平均二、三四七円と算定)と認められるから、合計金五七万五、二六九円となる。
従つて、相続財産の現在における評価額合計は、別紙遺産目録記載の(1)ないし(4)、(8)ないし(13)の審判時における評価額合計に、前記賃貸料および株式配当金五七万五、二六九円を加えた金二、一〇万一、八三七円ということになる。
五、分割方法
(1) 前記のとおり、申立人の相続分は二〇万一、九五一(円)であり、相手方浅田誠一の相続分は一、二二万八、九五三(円)であるから、本件遺産の総評価額二、一〇万一、八三七円は二〇一、九五一と一、二二八、九五三との割合で分割すべきこととなる。
そうすると、申立人の本件遺産から取得すべき価額は
2,101,837×201,951/201,651+1,228,953 = 296,641(円)
(円未満切捨)
相手方浅田誠一の取得額は
2,101,837×1,228,953/201,951+1,228,953 = 1,805,193(円)
となる。
(2) そこで分割方法を検討するに、当裁判所の申立人および相手方らに対する審問の結果、当裁判所調査官の調査報告書ならびに当裁判所昭和四二年(家イ)第二一号、第一六一号遺産分割調停事件記録を総合すると次の事実を認めることができる。
(イ) 被相続人は相手方浅田誠一を養子としていたが、かねてより被相続人の後継者を右誠一とし、申立人や相手方浅田高子らに遺贈すべき畑地以外の財産は誠一が承継するよう親族・知人等に語つていたこと
(ロ) 本件相続開始後、相続人らの間には全員の協議による分割案は定められなかつたけれども、暗黙のうちに亡父為蔵の遺志にそうて処理する旨の了解があつたこと
(ハ) 相手方浅田誠一は、相手方岩田道子の庇護のもとに現在大学生として福島市に在住し、勉学中であり、大学卒業後は、亡養父の遺志にそうべく村上市に帰来する意向であるが、ここ当分は学生として学業費の支出を必要とするばかりでなく躁うつ病治療のため、毎月相当額の経費を要するところ、右誠一にはこれにあてるべき資産として相続財産以外には何もないこと。
(ニ) 他方、申立人は東京○○○(株)に勤務する斉藤昇吉と結婚して長男をもうけ、比較的安定した都市生活を営み、村上市に帰来する意思は全くないこと
(3) 以上の事実関係を総合すると、本件遺産は、全部相手方誠一に取得させることとし、申立人の取得すべき相続分金二九万六、六四一円については相手方誠一をして申立人に対し金銭債務を負担させるのが相当である。而して、相手方誠一の前記諸事情を考慮し、右債務は本審判確定の日より一〇年間の年賦償還によることとし、審判費用中鑑定手数料については非訟事件手続法第二八条を適用して主文のとおり審判する。
(家事審判官 山下薫)
別紙(編略)